古美術覚え書き「奥谷秋石」[2022/5/1]

 茶道裏千家十四代碩叟宗室 淡々斎は無限斎とも呼ばれ、茶の湯を海外に普及させるなど、非常に活力に満ちた人物であったようです。また多彩な才能を持っていたようで、能や唄を良くし、和歌を詠み、書画にも長けていたと伝わっています。

 奥谷秋石はその淡々斎の絵の師であり、大阪出身で京都画壇に重きをなした、実力派の画家でした。師は長州藩出身の森寛斎。円山応挙を祖とする、円山四条派の画法を習得しています。

 その画風は均整のとれた写生的表現と、そのモチーフを包む空間の情緒的表現を融合させたもので、秋石はその技法を多くの門人に伝えています。
 また、秋石は上述の裏千家お家元淡々斎の絵の師であった縁からか、「茶掛け作家」と呼ばれていたようで、茶の湯に適う作品を多く遺している可能性があります。

 「茶会における、待合いの掛物」知り合いのお茶人によく訊ねられるのが、待合い掛けに良い掛軸があるか、という質問です。絵画は茶道具とはいえませんが、茶会において必要なものであることは確かです。茶道具ではないので、これを選ぶにはまた別の知識や感性が必要になるので、骨董を扱う私に訊ねられるのは当然と思います。

 しかし、正直言ってこれが難しい。山河を描いた山水画などは良く市場にも出ますが、待合い掛けにできそうな、ひとつのモチーフに絞ったもの(花や月、鳥獣など)は案外出てこないのです。

 おそらく、山水は人気のあるモチーフで、好まれていたために多く出回っているのだろうと思うのですが、たまに山水画以外のものがあっても、作家がわからない、わかっても別の地域の作家(住んでいる地域とは別の地域の作家のものはあまり好まれない)と、なかなか条件に合うものに巡り合えるのは、稀なことといえるのです。

 しかしそういった縁を大事にする人に、最良の出会いをもたらすことができるのが、物を売る人間の喜びであると思います。

2023年08月21日